木村至信先生に呼吸法を学ぶ会(概要)
今回は“呼吸“について、現役の耳鼻咽喉科の医師であり、歌手活動もされている木村至信先生に呼吸でセルフコントロールする方法や、“声“の質について詳しくお話ししていただきます。
医学博士 木村至信
医師・医療コメンテーター 信州大学病院勤務時代は難聴遺伝子、遺伝子解析研究のスペシャリストとして厚生省の難聴遺伝子研究員としてアメリカに留学。大学病院での高度医療、癌センターでのオペ研修など医療のトップレベルで15年以上勤務。帰国後は横浜市大医学部にて医学博士取得。現在は横浜市内のクリニックで地域密着の診療と都内某有名美容外科にて、美容外科医としても勤務中。
Q,最近呼吸によるマインドフルネスなど流行していますが、良く言われる腹式呼吸と胸式呼吸、この二つの違いは何でしょうか?
●木村:呼吸とは意識していなくても勝手にしているものです。
わざわざ息をしようと思って、ずっと意識しているわけではありませんよね。
それと同じことがもうひとつ体の中の機能としてあって、これを司るのが自律神経です。
自分が意識しないところで、勝手に自分の体とメンタルをコントロールする自律神経があり、これを呼吸法で一緒にうまくコントロールする。
これが呼吸法というツールで自律神経も自分の体調もコントロールしていこうという、今流行している“マインドフルネス”という発想です。
普段自分で意識しないでやっていることをあえて意識する、それが呼吸法であり、それによって自律神経を整えるということです。
息を吸って、肺で酸素を交換して口もしくは鼻で吐くという一連の動作を呼吸と言いますが、車で例えるとエンジン部分になります。
溜めておく場所と馬力をかける部分によって、呼吸法は別れます。
息を吸ったとき、胸が前に出るのが胸式で、逆にお腹が膨らむのが腹式呼吸です。
人間が通常意識せずに行っているのは胸式呼吸がメインです。
腹式呼吸は体力が必要となりますし、意識しないとなかなかできません。
胸式の場合、胸がタンクになりますのでお腹より容量が小さくなります。
なぜなら、肺は肋骨に覆われていてそれ以上は大きくなりません。
特に女性の場合は乳房があり、下着をつけていることで余計に胸式の中でも容量が小さくなります。
ということは、酸素量を増やすためには回数で補うしかありません。
回数が増える、つまり心拍数があがるので、血圧も同時に上がります。
これによって、胸式呼吸メインのときは交感神経が優位なのです。
逆に腹式呼吸のときはタンクが大きいので、胸式呼吸に比べるとそれほど回数は多くいりません。
心拍数もあがりませんし、血圧も下がり気味になり副交感神経が優位になっていきます。
この二つの呼吸をうまく使うことで、交感神経と副交感神経のスイッチを自在に操ることができます。
交感神経は、対外的に何かを発信するときや緊張状態、分かりやすくいうと攻撃モードのときです。
副交感神経は、逆にまったりしているときで、寝る前や好きな音楽を聴いてリラックスモードのときです。
●参加者A:自分の呼吸が浅いと感じたら?
●木村:「私、いま緊張しているのかな?」と思ってもいいですよね。
交感神経優位だと手汗などもかきます。
こういった兆候をキャッチしたら、深い呼吸、腹式呼吸を意識してするのもいいです。
ストレスを解消したいとき、これは緊張とリリースがポイントです。
わざと息を大きく吸い込んで、肩を持ち上げた状態で緊張状態をつくり、この状態で3秒止めます。
こうすることで体内が酸素を急激に欲するので、声を出して吐き出します。
●木村:一番人間がリラックスしているときというのは、呼吸すら意識しないときなのです。
呼吸法云々と言っている段階では、やはりリラックスしていないんですね。
ですから、気付いたときには深い呼吸をする!
最大容量をお腹で溜めて、長く深くを意識して腹式呼吸をメインに行う。
ただし、腹式呼吸はインナーマッスルを使うのでかなり疲れます。笑
(中略)
●参加者A:先生のように、歌手活動を行っているような人は、日々生活面でも腹式呼吸なのでしょうか?
●木村: 普段はみなさんと一緒で胸式呼吸です。
歌い手さんに多いのですが、喋っているときはハスキーボイスですが、いざ唄い始めるともの凄い声量が出るのは、腹式呼吸に変えて発声するからです。
●参加者A:唄うときと変えているのですね。
●木村: そうです。
例えばカラオケに行って、すごく声量のある唄い方をする人は腹式呼吸を無意識に行っているんです。
「ここでみなさん、音痴を直すには胸式呼吸と腹式呼吸どちらがいいと思いますか?」
●皆: うーん。
●木村:正解は胸式呼吸です。
例えば、野球でヒットを打ちにいくためにはバットを短く持ってコンパクトに振れといいますよね。 でも、ホームランを狙うなら長く持って思い切り振ります。
腹式呼吸は音程重視ではなく、声を張りたいときそれこそホームランを打つように思い切り腹式呼吸を使うのです。
●参加者A:ということは、音痴の人はひとまず胸式呼吸で直してから腹式で声量を出す練習がいいですね。
●木村:まず、ささやき声で音程をコントロールして、それから腹式で声量を出すことです。
(中略)
●木村:声ひとつをとっても、人に与える印象や時代背景が見えて面白いですよね。
様々なシーンで、自分をより良く演出するひとつのツールとして、気軽に呼吸法をうまく取り入れていただければと思います。